歯の治療で、虫歯で欠けてしまった部分が多い場合、本来の歯に替わる人工材料で被せる治療があります。専門的にはクラウン(冠)と呼びます。このクラウンの材料は金属やプラスチック、セラミックなどがあります。そして日本では、相変わらず銀色をしたクラウンがスタンダードです。まずはこの作り方を簡単に説明します。
先ず削った歯を粘土のような材料で型を取ります。それに石膏を注ぎ込み、歯型を作ります。今度はその模型の上に溶けた蝋を盛って歯の形に彫刻をします。これができたら、耐火石膏の中に埋めてから高温で熱します。すると蝋の部分が溶けて空洞ができ、この空洞の中に溶けた金属を鋳込むのです。この際には遠心力を利用します。
そして完成するまでに最短でも丸一日かかります。上記のように複雑な工程があり、人がやらなければならない事ばかりなのです。よって、エラーが入り込む余地がたくさんあります。しかも、材料が金属なので歯科用のセメントが接着しにくい欠点もあります。
40年前は最先端だった「鋳造修復」
40年前は、この方法が最先端でした。そして、この方法以外にクラウンは作れませんでした。しかし、現在はデジタルの時代です。当然ながら、全てデジタルでクラウンを作れる時代になりました。
つまり、型取りも専用のビデオカメラで削った歯をスキャニングして読み取ります。そして、パソコンに取り込んだデータからクラウンを設計します。そのデータをもとに、セラミックなどを機械が10分程度で削って完成します。この方法ですと、型取りのスキャニングから削り出しのミリング工程まで全工程30分で終了です。当然、仮歯なども不要ですし、鋳造修復よりも適合の良いクラウンができます。ただ、現在のところこの方法は保険適応にはなっていません。
実は35年以上前にドイツで開発された技術
この方法は、実は真新しいシステムではありません。開発したのはドイツで、もう35年以上前のことです。ただその頃は、パソコンの能力や削り出しのマシンの性能も低く、使い物にならなかったそうです。しかし現在に至っては、もっと正確なクラウンを作ることができるようになっています。当院ではこのシステムを10年前から運用しています。10年前のクラウンの適合性や形態は、ソフトウェアのバージョンアップにより現在は大きく改善されています。
なぜ歯科教育は今も「鋳造修復」中心なのか
問題は、このような良いシステムがあるにも関わらず、歯科大学や歯学部の教育が未だに鋳造修復を教えていて、デジタルはほとんどやっていないのが現状なのです。どうしてなのでしょうか。その一つは、教育機関にこのデジタルのシステムを導入しようとすれば、多大な設備投資が必要になるからです。
このデジタルのシステムは、歯型を読み取るビデオカメラとソフトウェア、さらにセラミックなどを削るミリングマシンが必要になります。その合計は最低でも一千万円程度かかります。学生2人にワンセットとすると、どんな大学でも二億五千万円程度はかかってしまうでしょう。これを全国のすべての大学で足並みを揃えて整備するのは、自力では困難だと思われます。
なぜ全国一律に行わなければならないかと言うと、歯学教育における文部科学省が提示するコアカリキュラムがあるからです。デジタルを教えるとすれば、このコアカリキュラムを変える必要があります。カリキュラムを変えれば、設備も更新する必要があり、国家試験というシステムにも関わります。さらに最大のネックは、全国の歯科医院の設備も替える必要があることです。削り出しのミリングマシンは置かずスキャナー部分だけにしても、最低でも五百万円位がかかります。これを自力で買える歯科医院は、ある程度の規模に限られると思われます。
国も金属の鋳造修復は減らしたい
ただ、国も金属を使った鋳造修復はやって欲しくないのです。それは、歯科用の金パラという金属には12%の金を含んでいるからです。そして昨今、金1gが10,000円もするようになってしまいました。ですから数年前から、コンポジットレジンのブロックを使った「CAD/CAM冠」というクラウンを保険診療に入れたのです。
この時代遅れを変えるには、政治主導の思い切った予算措置と旗振り役が必要になると思います。それをやる人がいないので、ずっと昔のままの教育になっているのだと思います。でも、誰かがやらないと日本の歯科医療は世界から取り残されてしまうでしょう。次回は、時代遅れの根管治療の教育について書きます。
この記事の執筆者
久保倉 弘孝(歯科医師・医療法人社団:敬友会理事長)
1986年に小机歯科医院を開設。K.SRCT(久保倉式スーパー根管治療)考案者。ICOI国際インプラント学会指導医(Diplomate)、歯科医師臨床研修 指導歯科医。