アレディアやゾメタなどのビスフォスフォネート製剤(BP製剤)、近年ではデノスマブ製剤を使用している方が、抜歯などの歯科処置を受けると、まれに顎の骨が壊死(腐る)することがあります。発症率はけっして高くありませんが、一度起こると治療が難しく、生活の質を大きく下げてしまいます。乳がんや骨粗鬆症などでこれらの薬を使っている方・これから使う予定の方は、歯科治療の前に必ず歯科医にお知らせください。
アレディアとゾメタ(登録商標)とは
アレディア(一般名:パミドロン酸ニナトリウム)、ゾメタ(一般名:ゾレドロン酸)は、乳がんの治療や多発性骨髄腫(国内ではこの病名では未承認)に使われる治療薬で、アレディアは1994年から、ゾメタは2004年から国内で使われているそうです。数ヶ月前に、この治療薬を使っている患者さんについての注意が歯科医師会からまいりました。それで少し、Web上の文献を調べてみました。歯科医師会からの通達には、このような薬を使っている患者さんの抜歯を行うと、下顎骨の壊死(腐る)事があるので注意せよ、だったと記憶しています。
ただ、色々HPを読んでみますと、私たち歯科医として、注意しなければいけない事があるのに気が付きました。
歯科医として注意すべき点
- 注射剤であること。多くは入院患者さんに行われるとは思いますが、その後退院したり、外来でも点滴静注している事も考えられます。患者さんは毎日服用している薬についてはよくご存知で、お薬手帳にも書いてあるので、歯科治療の際にもお知らせ願えますが、注射剤の場合は、数週間前の注射などを忘れてしまっているのではないかと思いました。ですから、乳がん等の既往歴を言っていただいた患者さんについてはもちろんですが、健康そうな患者さんにも注射剤等の点を問診しなければいけないのかと思いました。
- 口腔内の清潔が重要であること。この注射剤を行った後の抜歯は避けなければならないのは当然ですが、口腔内の汚れも、下顎骨の壊死に関連するらしいのです。製造販売元のノバルティスのHPには、投与前は患者さんの口腔内の状態を注意深く観察してくださいと書いてあり、更に同社のHPには海外の顎骨壊死の予防に関する専門委員会の提言(2004年6月)の和訳が載っておりました。それには、やはり投与する前に、歯及び歯の周囲の感染を調べる為に、レントゲン撮影を含めた臨床検査の定期的な実施が推奨される、とありました。
これを歯科医なりにもう少し補足しますと、歯の炎症などは痛みがありますのですぐにわかりますが、歯の周囲の炎症はなかなかわからないものです。それを調べるのには、歯の周囲の溝の深さ(歯周ポケット)や、そこからの出血を見る必要があります。つまりそのような検査をして、出血があるようですと、必ず炎症がありますので、治療が必要になってきます。また、このような薬剤を使われる場合は、口の中を清潔に保つのは当たり前ですが、それを数値化したプラークスコアをできるだけ下げておく必要があるのではないかと思いました。
顎骨の壊死の頻度は、世界中で投与された患者さんの0.02パーセントにしか見られなかったそうなのですが、一度、顎骨の壊死を起こしますと、治療は腐った部分を削り取るしかありません。顎は当然に食物を食べるのに必要ですし、それほど骨を削れませんので、顎骨の壊死はできるだけ予防する事にほかなりません。がん治療にあたる先生方におかれましては、この薬剤を使われる場合は、院内の口腔外科や患者さんがおかかりの歯科医にご一報いただき、口の中の状態についてお耳を傾けていただけるとありがたいと思いました。
追補:顎骨壊死について
ビスフォスフォネート製剤(以下BP製剤)における顎骨壊死の報告は、2003年のMarkによる報告が最初とされ、世界中で2400例を超える症例があるそうです。日本でも口腔外科学会雑誌にはかなり報告がなされるようになってきました。症例の3分の2は女性であり、下顎骨が3分の2、上顎骨が3分の1だそうです。
また、BPによる顎骨壊死の統一した診断基準は暫定的に定義されているそうで、「顎骨への転移性病変または放射線骨壊死と診断できず、6週間にわたる適正な歯科的評価および治療によっても全く治癒が見られない骨露出」ということです。
なお、顎骨壊死の症例は全体の60%が抜歯などの歯科処置に続発して生じ、40%は義歯が擦れたり外傷や感染などにより生じるそうです。また、特筆するのは、20%は自然発生との事です。
アレディアとゾメタは窒素含有BPと呼ばれ、骨に強固に結合し半減期が約10年だそうで、骨への為害作用は特に強いそうです。しかし、癌には効果があるために多用されているそうで、その場合、ステロイドホルモン剤との併用により、骨への外科的処置によって骨髄炎や顎骨壊死を発症する危険がさらに高まるそうです。
治療については確立されておらず、いじると悪くなるそうです。
アレディアやゾメタ以外のビスフォスフォネートでも顎骨の炎症の報告がなされています。それは骨粗鬆症の際に服用されているリセドロネート(ベネット)やアレンドロネイト(フォサマック)等の経口薬です。(エチドロネートのダイドロネルでの報告はないそうです。)
骨粗鬆症のお薬を服用中の方へ
骨粗鬆症の経口薬はかなりの方が服用されているようですので、歯科医院におかかりの際には必ず申告してほしいですね。
BP剤 注射剤一覧
| 製品名(一般名) | 適応症 | 製造販売 |
|---|---|---|
| アレディア(パミドロン酸ニナトリウム) | 悪性腫瘍 | ノバルティス |
| オンクラスト、テイロック(アレンドロン酸ナトリウム水和物) | 悪性腫瘍 | 万有、帝人ファーマ |
| ビスフォナール(インカドロン酸ニナトリウム) | 悪性腫瘍 | アステラス |
| ゾメタ(ゾレドロン酸水和物) | 悪性腫瘍、多発性骨髄腫 | ノバルティス |
※海外の文献からすると、注射剤での顎骨壊死の発生頻度は0.88〜1.15%。
BP剤 経口剤一覧
| 製品名(一般名) | 適応症 | 製造販売 |
|---|---|---|
| ダイドロネル(エチドロン酸ニナトリウム) | 骨粗鬆症、脊髄損傷後・股関節形成術後の骨化抑制、骨ページェット病 | 大日本住友 |
| フォサマック、ボナロン(アレンドロン酸ナトリウム水和物) | 骨粗鬆症 | 万有、帝人ファーマ |
| アクトネル、ベネット(リセドロン酸ナトリウム水和物) | 骨粗鬆症 | 味の素(販売:エーザイ)、武田 |
※海外の文献からすると、経口剤での顎骨壊死の発生頻度は0.01〜0.04%。
発生頻度と治療について
また、米田によると、経口BP剤の場合の発生頻度は10万人に1人と推定され、カナダ顎顔面外科学会では、(抜歯等の外科処置の際に)薬を中断する必要はないとされている、と述べています。骨代謝マーカーの一つのCTX(Ⅰ型コラーゲン架橋C-テロペプチド)の数値があるていど関係しているとも聞きましたが、真偽のほどは不明です。追補として、窒素を含まないエチドロネート(ダイドロネル)では顎骨壊死の報告はないそうです。また、一番報告の多いのが、注射剤のゾレドロネート(ゾメタ)だそうです。
これらBP剤は、乳がん等の骨転移の疼痛緩和、骨粗鬆症における骨折の予防にはとても有効だそうなので、使用を否定するつもりは一切ありませんし、経口剤においての発症率はとても低いので、あまり怖がるのはどうかと思います。しかし、一度顎骨壊死を起こすと治療法が無く、大幅にQOL(生活の質)を低下させてしまうのが困ったものです。
これから投与を予定されている方へ
これらの薬の投与が予定されている場合は、主治医とよく相談をして、歯科治療を先行させて終了させたり、口腔ケアを十分に行う事が重要とされています。
デノスマブ製剤について
現在(2020年)では、これらのビスフォスフォネート製剤のほかにも、デノスマブという製剤にも顎骨壊死を引き起こす事が報告されています。商品名はランマークとプラリア。両方共に飲み薬ではなく、皮下注射薬です。ランマークは骨髄腫、プラリアは骨粗鬆症の薬です。プラリアの場合、半年に1度の皮下注射なので、患者さん自身はまずは覚えていないのではないかと思います。それでいて、抜歯等の外科処置を行った場合の顎骨壊死の確率は0.1%程度とされています。
参考・参考文献
- 田中徳昭 他:ビスフォスフォネートに関連したと考えられる下顎壊死の2例、日口外誌、53:392-396、2007
- 望月裕美 他:乳癌骨転移に対するビスフォスフォネート療法に関連して発症した下顎骨壊死に対して顎下腺移動術を施行した1症例、日口外誌、53:314-318、2007
- 山口晃史 他:ビスフォスフォネートが原因と考えられる下顎骨壊死の一例 発症機序と予防に関する考察、日口外誌、54:602-606、2008
- 米田俊之:ビスフォスフォネートの有用性と顎骨壊死(下)、月刊保団連、99:58-64、2009
追補 2008年7月13日/追補 2020年9月7日