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MTA セメント

待ちに待ったセメントが日本国内で発売されました(2007年)。
セメントと言うと、通常は金属をくっつけるために使う事が多いですが、このMTAセメント(商品名 プロルート)には、特殊な用途があります。それは、穴埋め用としての用途です。ただの虫歯の穴ではなくて、歯から骨に抜ける穴を埋めるのに使うものなのです。又、最近では、深い虫歯を削っていった場合に歯随(神経)が露出して出血して来る場合があります。ひと昔前なら、神経を全部取る方法が一般的でした。しかし、このMTAセメントの出現により、直接覆髄(ちょくせつふくずい)と言って、部分的に歯髄を除去してこのセメントを置いておくだけで、全部歯随を取る事が不必要が場合も多くなりました。

ただ、この直接覆髄は、やってみないと分からない側面があります。なぜならば、歯を削って露出した歯髄は、必ず出血しているからです。つまり出血している組織をマイクロスコープでみても歯髄のどこまでが感染しているかが分からないのです。つまり皮膚の様な色を観察して歯髄の健康度を予測することが困難だからです。

穿孔している場合

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今までは、穿孔部を穴埋めするのに適した材料はありませんでした。なぜかと言うと、骨に抜けている歯の穴は出血などにより、濡れていたり、湿っていたりして通常のセメントではしっかり接着しなかったからです。厳密に言うと、スーパーボンドと言う接着剤も濡れている環境でも接着はしたのですが、詰めにくいと言う欠点がありました。ところが、このMTAセメントは詰め込む事が簡単にできるのです。

しかし、日本での薬事承認は直接覆髄と言って、歯の中に使う事により取得されました。

開発はアメリカのロマリンダ大学のイラン出身Dr.Mahamoud Trabinejadによります。
成分は、酸化カルシウム(CaO)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)等に二酸化ビスマスを配合したものらしい。つまるところ、工業用のポルトランドセメント(普通のコンクリート)と成分は殆ど変わらないそうだ。ただ、この工業用のコンクリートにはヒ素の様な有害成分も含まれていますし、粒子も荒いので歯科用のMTAセメントとは別物と考えて良いでしょう。

このMTAセメントは、滅茶苦茶に高いのです。工業用のポルトランドセメントは10キロでも500円位ですが、このセメントは1グラムが約7千円もします。この値段が凄く問題なのです。この値段では保険診療で使う事は事実上無理なのです。
なぜならば、穴を埋める事に関しての保険の診療報酬はありませんし、もしも覆髄に使ったとしても診療報酬は1880円(2018年現在の保険点数)で全ての処置をしなければなりません。

つまり健康保険の場合は、安価な水酸化カルシウムを使わざるを得なく、MTAセメントは自費診療でしか使用できないのが現状です。叉、混合診療との関係もあり、このセメントを使う場合は、これに付随する診療行為も全て自費でするようにされています。

尚、一般的には、このセメントは硬化する際に水分を必要とします。この点はコンクリートの硬化と同じです。よって、穿孔部の治療には最低でも2回の治療が必要になります。1回目にMTAに水分を与えた綿球を2回目に取り除く必要があるからです。

MTAセメントによる穿孔症例の成功率

一昔前までは、穿孔をしてしまったら、歯は終わりと考えられていました。穿孔とは、根の治療(根管治療)を行っている時に、多くは誤ってドリルを使い、歯の中から外にぶち抜いてしまう事です。歯科介の隠語でパホリと言います。

現在では、穿孔してしまっても、このMTAで修復をすれば、かなりの確率で抜歯を回避出来る事が分かってきました。ドイツのMente J らは、穿孔した64歯をMTAで治療し、その予後を報告しています。治療後12-107カ月の評価では、86%が治癒をしたと述べてます。また、穿孔の大きさは3ミリを超えると成績が落ちる様です。

穿孔をしてから修復をするまでの時間が問題になりますが。当院での症例では、暫く経過した症例でもかなり良い経過をしている事を確認しています。

文献

Mente J et al.Treatment outcome of mineral trioxide aggregate: repair of root perforations-long-term results.J Endod.2014 Jun;40(6):790-6

実際の使用例


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予後良好です。


記入 2007/06/04

現在では、プロルート以外の製品も発売されております。 2011/09

追補 2018/03/25

 

尚、ケースルクト法(スーパー根管治療)の症例集の症例25.44番が根管治療中に他医院で穿孔させてしまった症例をMTAでリペアした症例です。その25番症例を見る  その44の症例を見る

 

MTAセメント自体は歯より強度はデータ的には低いです。しかし、10年使って見るとその数値よりも成績は良い気がします。つまり、穴を埋めたところのMTAが経年劣化で割れてくると想像していましたが、意外に起こらないのです。

MTAセメントを用いた直接覆髄の成功率 

深い虫歯の治療の場合、虫歯を全部取りきると歯髄(通称神経)が露出して出血して来る場合があります。この様な場合で、歯随にあまり感染が起こっていない場合は、直接覆髄と言う処置を行う場合があります。つまり歯髄を除去しないで温存する方法です。これにMTAを用いるのは、予後が良い場合が有ります。何が良いかと言えば、歯随が生き残るのと、歯の内面を削りませんので、歯の強度を落とす事が無いからです。文献的には2014年にドイツのハイデルベルグにある、ブレヒトカルツ大学のメンテらが発表した数字によると、水酸化カルシウウムを歯随の上に乗せて場合は59%の成功率。それに比べて、MTAセメントを使った方は80.5%と明らかに高かったと報告しています。又、トルコのカリスカンによると、MTA使用が85.9%。水酸化カルシウムが77.6%と報告しています。

死んでしまった歯随はよみがえりませんが、多少の痛みの歯には試してみる価値があると思います。ただ、この場合、逆を言えば、20%程度は失敗し、抜随と言う歯随を全部取って行う、根管治療が必要になってきます。費用もかかる事ですので、その点を納得してから治療を受けなければなりません。

追補(2022年)死んでしまった歯髄の再生も、親知らずの様な不要な歯から採集してきた歯髄細胞を培養し、移植する事により出来るようになってまいりました。小机歯科医院はその第二種再生医療の認可を厚生労働省から頂いています。

 

参考文献

 Mente J.et al.Treatment outcome of mineral trioxide aggregate or calcium hydroxide direct pulp capping: long-term results.J Endod. 2014 Nov;40(11):1746-51


Çalışkan MK.et al.Prognostic factors in direct pulp capping with mineral trioxide aggregate or calcium hydroxide: 2- to 6-year follow-up.Clin Oral Investig. 2017 Jan;21(1):357-367


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