歯の根の中の治療を「根管治療」と呼びます。
その根管治療についての一般向けの本を出版して1年あまり。また、ウェブでの症例掲載の充実をはかり続けているからか、この根管治療をめぐる患者さんが訪れる事が多くなりました。
ご相談で多いのは「現在、受診している歯科医院、病院では手術や抜歯と言われたけど、何とかならないか?」と言う訴えです。
咬む部分が全く無く、残っている根も見た目で崩壊しているのが分かる様な場合やレントゲンで完全に歯の根が折れているのが読み取れる場合。この様な場合は抜歯は避けられません。
しかし、「根の先の骨が溶けているから抜歯と言われた」と言うケースが意外に多いのです。
骨が解ける?患者さんとすれば、骨は折れるもので溶けるなどと聞くと、一体どう言う事だと思うはずです。
歯は健全な場合、内部に歯髄と呼ばれる部分があります。通称は神経です。お饅頭で言う、アンコの部分です。そこの部分にバイキンが入る事により、つまり感染が起きる事により痛みが出るのです。
歯以外の部分の場合、細菌感染が起こったからと言って、組織が壊死、つまり腐る事は無いです。しかし歯髄の場合は、とてもひ弱な組織なので、直ぐに壊死をしてしまうのです。
壊死をしてしまうと、感覚を司る本当の神経組織も死んでしまうので、痛みは一時的に無くなるのです。しかし、それもつかの間。歯の根の先には必ず孔があいています。これを根尖孔と言います。この孔から血管や神経が入り込んでいるのです。
骨が溶けてしまうのは、この根尖孔の周辺です。歯髄=神経が生きている間は、絶対に根尖孔の周辺の骨が溶ける事はありません。
骨が溶けていると言うのは、実際には、骨が他の組織に置換してしまっているのです。多くは骨が歯肉の様な柔らかい組織になってしまっているのです。
そこで話を元に戻しますが、この根の先の骨が溶けたら抜歯なのでしょうか?患者さんが言われてくるのは、やはり根の先の骨が溶けていて、その部分も大きいから、手術か抜歯と言われて来院されてます。
それでは手術とはどう言う事なのでしょうか?簡単に言えば、根の先をちょん切ってしまう事です。当然ながら、歯肉を切開して歯の周りにある骨を削ってのアプローチなので腫れたり、痛みもあります。これを歯根端切除術と呼びます。
それでは、どんな歯でも歯根端切除術が出来るでしょうか?最近ではマイクロスコープの普及により適応範囲は広くなりつつあります。しかし現実問題、前歯が最適応であり、奥歯には不向きです。特に、上顎の大臼歯(大きい奥歯)は根が3本あり、内側の根の歯根端切除は事実上無理です。
それでは、なぜ抜歯と言われるのでしょうか?それには2つの理由があると思われます。1つ目は、歯科医師が根管治療では本当に治らないと思っている事。2つ目は、根管治療のやり直しが非常に大変だからです。しかも健康保険の場合は大赤字になるからです。それは先述の、根尖孔を再度探さなければならないのからです。その為には、先ずは被せ物を外すのが最初。その次に、中の土台を外します。更に根管の中のガッターパーチャと言う物質を外さなければなりません。被せものを外すのはそれほど手間ではありません。しかし、次の土台を金属で作ってある場合では、全てを外すのに2時間程度かかってしまう事もあります。しかかも、マイクロスコープを見ながら、オリジナルの歯を削らない様に細心の注意が必要なのです。それでも健康保険での診療報酬は、全てを除去するのに、僅か600円程度(患者さん負担は200円)です。
悲しいかな、抜いてインプラントとなってしまうのかもしれません。
当院で行なっている、スーパー根管治療は自費診療ではあります。しかし、根の先の骨が溶けていても、骨が再生する確率は87%と言う結果が出ています。
その例としてCT写真を提示しておきます。この写真は、ボリュームレンダリングと言うCTからの合成写真です。治療前には頭蓋骨の一部に孔が開いていたものが治療後には、跡形も無く孔が消えているのがお分かり頂けると思います。これ画像処理ソフトで塗ったわけでは有りません。骨の表面にある、骨膜から骨が新しく作られたのです。
なぜスーパー根管治療で骨が再生するのでしょうか?その答えは分からないと言うしかないのです。恐らく、何かの化学物質が関与をして、骨の吸収や再生をコントロールしているのではないか、と推察をしています。
この様に骨に丸く孔が開いている様になるのは、上顎が圧倒的に多いです。
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